公開日:2026年5月30日

エルネスト・ネトが20年ぶりのギャラリー個展で語った共生、身体、日本。「完全に独立した存在なんて、本当はどこにもない」

現代のブラジルを代表する作家のひとりであり、国際的にも高く評価されているエルネスト・ネト。小山登美夫ギャラリー六本木での個展に際してインタビューを行った

エルネスト・ネト。6月13日まで開催中の「Dreaming Beings(夢見る存在たち)」(小山登美夫ギャラリー六本木)の会場にて Photo by Xin Tahara

現代ブラジルを代表するアーティストの一人、エルネスト・ネト。1964年にリオ・デ・ジャネイロに生まれ、現在も同地を拠点に活動を続けている。80年代後半より、ストッキングやスパイス、布など柔らかな素材を用いた作品を発表し、90年代以降は、鑑賞者が内部へ入り込む大型インスタレーションで国際的に注目を集めてきた。

その作品は、視覚だけでなく、触覚や嗅覚を含む身体全体で体験される空間として構成。背景には、50〜60年代にブラジルで展開された新具体主義の思想も流れており、作品を通して、自身の身体や他者、さらには世界とのつながりを感覚し直すことが試みられている。

現在、小山登美夫ギャラリー六本木では、20年ぶりとなる同ギャラリーでの個展「Dreaming Beings(夢見る存在たち)」を開催中だ。会期は6月13日まで。会場には、ドローイングや立体作品が有機的に配置され、呼吸するような空間が立ち上がっている。

本展にあわせて行ったインタビューでは、展示空間が生成されていくプロセスから、「共生」という思想、アマゾンの先住民フニ・クインとの出会い、そして日本についてまで、幅広く話を聞いた。

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すべてが“ダンス”の状態にある

「今回の展示は、当初のプランからがらりと変わりました。最初はドローイングと彫刻を別々の空間に配置するつもりでした。でも、作品を会場に置き始めるうちに、少しずつ流れが変わっていった。作品自身が、“自分はここにいたい”と語り始めるような感覚があったんです」

そう語るエルネスト・ネトの展示空間は、あらかじめ固定された構成物というよりも、作品同士の関係によって絶えず変化していく“場”と言えるのかもしれない。

会場風景 ©︎ Ernesto Neto Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Kenji Takahashi

小山登美夫ギャラリー六本木でじつに20年ぶりの個展では、自身でスーツケースに入れて日本へ運んできた作品を会場に置いた瞬間、展示全体の構成が変化し始めたという。事前の設計図に従うのではなく、作品同士の応答を感じ取りながら、空間は有機的に組み替えられていった。

ギャラリーにて制作したという新作ドローイング《あなたを見たとき、それがあなただとは気づきませんでした/When I saw you, I didn't realize that you was you》には、粘土と水が用いられている。紙はあえて歪ませた状態で設置され、黄色いテープによって固定されているが、そのテープもまた、たんなる支持材ではなく作品の一部として機能している。もともとは仮止めのために使っていた黄色いテープだったが、作業を続けるうちに、その暫定性や即興性そのものが重要な要素として残されることになったという。

会場風景より、手前が《あなたを見たとき、それがあなただとは気づきませんでした/When I saw you, I didn't realize that you was you》(2026) ©︎ Ernesto Neto Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Kenji Takahashi

「完成されすぎた状態にはしたくなかった。もっと不安定で、“いま生成されている”感じを残したかったんです。最初はあとで別のものに変えるつもりだった黄色いテープも、見ているうちに、その暫定性や即興性そのものが重要に思えてきました」

彫刻に用いられているクロシェ(かぎ針編み)は、1990年代初頭、祖母の家で大叔母から学んだ技法。大叔母はネトの上達の速さに驚いていたそうだ。

「幼少期、祖母の家にはかぎ針編みや織りなどの手仕事を行う女性たちが集まっており、その環境に自然と親しみました。輪から始まって、少しずつ広がりながらかたちが生まれていく。そのプロセス自体が、とても生命的に感じられた。クロシェは単純な技法ですが、同時に、関係を編み続けていく行為でもあると思っています」

竹、綿糸、粘土、水──素材はいずれも素朴なものばかり。しかし、それらは強固に固定されることなく、重力や張力の均衡のなかで、かろうじて空間に留まっている。それをネトは、「全部が“ダンスの状態”にある」と言い表す。

会場風景より、《Ritual dance》(2026) ©︎ Ernesto Neto Courtesy of Tomio Koyama Gallery Photo by Kenji Takahashi
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